iPhoneの修理依頼内容で最もポピュラーなものとして「液晶画面に関するトラブル」が挙げられます。毎日持ち歩く精密機械であるiPhoneは常に、落下・衝撃・水濡れなどの危険に晒されており、液晶画面のトラブルはいつ起こってしまってもおかしくありません。いざトラブルが起こってしまった時、まず「これって修理できるの?」と思われる方が多いかもしれません。そんな疑問に対する一助として「液晶画面トラブルの修理」の現状について、説明させていただきたいと思います。
尚、以下の内容は全て当店独自の見解となります。予めご了承の上ご覧ください。また、iPhoneの修理を取り扱っている店舗は大別して、メーカー公認の「正規店」とメーカー非公認の「非正規店」に分類できますが、ここでは主に、当店のような「非正規店」における修理ついて説明しています。
液晶画面トラブルの修理
まず、液晶画面のトラブルは、大別して以下の3種類に分類できます。
- ガラス割れ
- 液晶表示不良
- タッチ不良
上記のトラブルが単発、もしくは複数同時に発生することになります。それぞれのトラブルには程度があり、ほんの1部分だけの場合もあれば、画面全体に及ぶ場合もあります。特に、液晶表示不良やタッチ不良が画面全体に及んでしまった場合、もはやその端末は操作不能となり、修理しなければデータのバックアップ作業すらままならない状態となってしまいます。つまり「そのまま買い換えてしまうとバックアップしていないデータは全て失われてしまう」ことになってしまうのです。
そして、そんな液晶画面トラブルの修理方法は、基本的にすべて『フロントパネル交換』となっています。フロントパネルとは『タッチセンサー内蔵式液晶パネルに強化ガラス製フロントガラスを圧着して一体化されたパーツ』のこととなります。「ほんの1箇所だけの小さなひび割れ」といった軽傷であろうが「全面バッキバキに割れて液晶も真っ暗。おまけにタッチもできない」といった重症であろうが、修理方法としては同じく『フロントパネル交換』となります。ですので、修理業者としての手間やコストは、液晶画面トラブルの重症度による違いはほとんど無いのです。ちなみに当店では、液晶画面トラブルの重症度による修理料金の違いはございません。
余談 液晶画面トラブルの『重症度』について
余談ですが、多くの非正規修理店様において「液晶画面トラブルの重症度による修理料金の違い」が設定されています。上記の通り修理にかかる業者側のコストは、トラブルの重症度の影響をほとんど受けません。なのに、修理料金に差があるのにはいくつか理由が存在します。主な理由としては「取り外した純正品のフロントパネルが売れる」からです。修理時に取り外した(破損した)純正品フロントパネルの所有権が誰にあるか厳密にはわかりませんが、重症度による値段差を設けている修理店様の多くは事前同意書などで「取り外したパーツはお返しできません」という条項を設けています。そうして入手した純正品フロントパネルは、再生業者が買い取ってくれます。ただし、破損度合いの大きいものは買い取ってくれません。というか、ほとんどの破損パネルにはまともな値段がつきません。というのも、再生業者としては「ひび割れた表面ガラスだけを張り替えて純正パネルと同等な再生フロントパネルを作る」ことが目的なので、かなり軽微なひび割れ程度でなければ買い取る意味がないからです。なので、重症度による値段差を設けている修理店様にとって、軽傷・重症を判断する基準は「再生業者が買い取ってくれるかどうか」によって決まることになるのです。
フロントパネルの種類
基本的にフロントパネルは機種ごと(iPhone8・iPhone13Proなど)に仕様が異なりますので、それぞれの機種に対応したパーツが必要になります。そしてフロントパネルには、色々な種類が存在します。主な種類とその特徴を説明します。
※以下はあくまで当店独自の見解として「理解しやすさを重視」した分類となります。ご理解の上ご覧ください。
1. 純正フロントパネル
メーカーが直接取り扱う正規パーツとなります。特に工場出荷時に端末に取り付けられていた物は「真の純正フロントパネル」として重要な意味を持ちます。というのも、iPhone11以降の機種(iPhoneSE2/SE3を除く)については、フロントパネル固有の製造番号が本体に登録されているため、例えメーカー純正品パーツであっても(もちろん互換品パーツであっても)別のパネルに交換すると「不明な部品」アラートが出てしまうからです。これは、メーカー正規修理店で交換した場合のみ回避できる仕様となっています。
純正フロントパネルの品質は、当然ながら最高級Sランク品です。表示品質・タッチ感度・耐久性のどれを取っても、これ以上は存在しないと言い切れるレベルです。液晶画面トラブルの修理を行う際、品質を最も重視するならこれ一択と言って良いでしょう。
難点としては、メーカー正規修理店でしか扱っていないため、修理に必要な時間が多くなる(基本的に予約が必要で、そもそも近隣に正規店がない地域も多いので移動もしくは郵送コストが必要)ことと、修理費用が高額になることです。また、本体内のデータが問答無用で初期化されてしまうため、データの「事前のバックアップ」や「修理後のデータ復元」が非常に手間であることも、正規店修理のハードルを上げている一因と思われます。只、費用についてはメーカー保証(AppleCare+など)に加入していれば抑えることができ、その後の保証もしっかりしているので、加入状況によって検討するのもおすすめです。
2. 再生フロントパネル
前出の純正フロントパネルを取り外して再利用する、いわゆる中古パーツになります。主に、中古品端末から取り外したものや、修理の際に取り外した破損パーツを修復したものとなります。ほとんどの場合、表面ガラスのみ張り替えたリペア品となってます。この張り替え作業には専用の機械工具と無塵室が必要なため、一般的な修理店がその場で行うことはできません。よって、再生業者から仕入れることができる一部の修理店でのみ、取り扱われているパーツとなります。
再生フロントパネルは、品質の核となる「タッチセンサー内蔵式液晶パネル」が純正品となるため、非常に高品質なことが最大の特徴となります。但し、あくまでも中古品なので品質のバラツキがあることや、後述の互換品パネルと比べて修理費用が高額になってしまうこと、そしてiPhone11以降の機種(iPhoneSE2/SE3を除く)において「不明な部品」アラートが出てしまうことが難点と言えます。
ですが、非正規店で扱われていることのメリット(データそのまま即日対応など)が享受できるため「品質にこだわりつつ早く直したい」という方や「破損で操作不能に陥ったためデータのバックアップが困難だけど品質にはこだわりたい」という方にはおすすめです。
3. 互換品フロントパネル
メーカー非公認のサードパーティー製互換パーツとなり、当店や他の非正規修理店様では基本的にこの「互換品フロントパネル」を用いて修理を行っています。様々なメーカーが様々な性能のパーツを生産しており、品質はピンからキリまで存在しますが、確実に言えることとして『純正品フロントパネルには及ばない』ことが挙げられます。誤解を恐れずに言いますと、当店で「高品質パーツ」と表現するのは、あくまで「数ある互換品の中で品質の高いもの」という意味になります。
フロントパネルにおける最もわかりやすい品質の指標としては、やはり「表示品質」が挙げられます。これには「明るさ・コントラスト・シャープネス・色合い・動きの滑らかさ」などが含まれ、パッと見でその品質の違いが認識できます。互換パーツの中でもグレードの高いモデルでは、この「表示品質」においては「純正品にせまる品質」のものも存在し、それらは「高品質パーツ」や「ハイグレード品」と呼ばれています。対して「ローグレード品」となると、画面が全体的に暗かったりぼやけてたり、青っぽい印象だったりします。
そして最もわかりにくい品質の指標として「耐久性」が挙げられます。これには「表面ガラスの割れにくさ・故障率の低さ・耐衝撃性能・製品寿命」などが含まれ、すぐに評価することができません。ですが、一般的に「表示品質の高さと耐久性は比例する」傾向があると言えます。安物はどこまでも安物ということです。
また、実は当店的に最も「純正品」と「互換品」の品質の違いを感じる指標として「タッチ感度」が挙げられます。「表示品質」「耐久性」ともに純正品にせまる品質である「ハイグレード品」であっても、この「タッチ感度」だけは「純正品」に及ばないと感じられます(あくまで当店独自の見解です)。と言っても、普通に操作する分にはほとんど違和感は感じられないレベルなので、十分使用には耐えられます。その点はご安心ください。只、スワイプ時の追従性がほんのわずかながらも遅れる感じがします。いわゆる「高速フリック入力」や「反射神経重視のアクションゲーム」などをした際に、若干の違和感を感じるレベルですので、そこに相当こだわる方にはおすすめできないかもしれません。逆に「そこまではこだわらない」「普通に使えれば十分」という方には「ハイグレード品」による修理が最もおすすめです。
ちなみに「ローグレード品」の「タッチ感度」は最悪です。普通に使っているだけで違和感を感じるレベルなので、総合的に見てとてもおすすめできません。唯一「画面故障端末からデータだけ引き継いで乗り換えるため“だけ”にとりあえず直したい」といった状況の方には、最も安く修理できる「ローグレード品」がおすすめできます。
前出の通り「互換品フロントパネル」は、当店や他の多くの非正規修理店様で採用されております。ですので「互換品フロントパネル」で修理することのメリットは、非正規店で修理することのメリットとほぼ同義と言って差し支えないでしょう。ひとことで表すと「正規の修理よりお手軽である」ことに尽きると思います。同時にデメリットも存在し、これもひとことで表すと「品質は純正品には及ばない」ことになります。
余談 「True Tone」について
iPhone8/8plus以降に発売された機種には「True Tone(トゥルートーン)」という機能が採用されています。これはひとことで表すと「画面の自動色合い調整機能」となります。iPhoneには古来より「明るさの自動調整」という、周囲の明るさに合わせて画面の輝度(明るさ)を自動的に調整してくれる機能が備わっていました。そして「色合い」については手動で調整する仕様になっていました。その色合い調整を「True Tone」搭載機種では自動的にやってくれるのです。どのように調整してくれるかと言えば「環境光に合わせてより自然な色合い」かつ「使用者の目に優しい色」になるそうです。あくまでメーカーの基準なので、人によってはかえって見辛いと感じることもあり得ます。なのでこの「True Tone」機能は設定でオン・オフが可能になっています。標準設定では「オン」なので、知らずに使っている方も多いかもしれません。
そしてこの「True Tone」機能について、フロントパネルの交換をすると失われてしまうことがあるのです。というのも、この機能は「液晶画面側でも対応していることが必要」であり、一部の「互換品フロントパネル」ではそもそも非対応なものも存在します。非対応なパーツを使用して修理を行えば、当然この機能は失われてしまいます。また、この機能に対応しているパーツを用いた場合でも、オリジナルの純正パネルから情報を引き継がなければ、やはり機能が失われてしまいます。情報の引き継ぎには専用の装置が必要で、それを使って「対応パネル」に情報を書き込んだ場合のみ、修理後も「True Tone」機能が使用できるのです。
但し、フロントパネル以外にも「True Tone」機能を構成するパーツが存在し、それらは変えがききません。具体的には調光センサーを有するフロントセンサーなどが該当します。機種によってそのフロントセンサーが別の部品と一体化していることがあり、インカメラやイヤースピーカーなどがあります。ですので、機種によってはインカメラやイヤースピーカーの故障を直すためにパーツを交換した結果、「True Tone」機能が失われてしまうこともあるのです。
当店では「True Tone機能対応フロントパネル」を使用し情報移行機器もご用意しているので、基本的にフロントパネル交換修理で「True Tone」は引き継ぎます。ただ、機種や修理内容次第で引き継げない場合もございますので、その時はあらかじめお客様にご説明し、ご了承の元修理を行ってまいります。
液晶画面の種類
液晶画面には大きく分けて2種類の表示方式があり、従来の通常液晶タイプ(LCD)と新型の有機ELタイプ(OLED)となります。有機ELタイプの特徴としては、通常液晶タイプに比べて色表現(特に黒)が鮮やかであること、動きが滑らかであること、視野角が広いことが挙げられます。
また、よくある疑問として「どちらが省エネか?」というものがありますが、答えは単純ではありません。ちなみに、テレビの場合は『通常液晶タイプの方が省エネである』ことが知られています。ですが、iPhoneの場合もそうであるとは限りません。そもそも液晶画面が消費する電力は、そのほとんどが『発光』により消費されます。そしてその発光のメカニズムが、通常液晶タイプと有機ELタイプで大きく異なっているのです。通常液晶タイプにおける「発光」とはバックライトのことであり、画面全体を満遍なく照らします。そしてその上に設置された液晶のピクセル1つ1つが「発色」することで、画面を構成しています。対して有機ELタイプでは、画面上のピクセル1つ1つが「発色」しつつ「発光」することで画面を構成しています。つまり、明るい部分、特に「白」の部分で最も多くの電力を消費し、暗い部分、特に「黒」の部分ではほとんど電力を消費しないのです。ですので、有機ELタイプにおいては表示内容次第で消費電力が大きく上下することになります。一方で通常液晶タイプにおいては「明るさの調整」すなわちバックライトの強弱が、消費電力をほぼ決定することになります。
ちなみに「ダークモード」という設定は、画面上の黒い部分を増やすことで、有機ELタイプにおいて消費電力を抑える効果が期待できます。一方通常液晶タイプにおいては、見た目の変更以外の意味は特にありません。
iPhoneにおいて有機ELタイプ液晶画面は、iPhoneXで初めて採用されました。そして以降のモデルでは有機ELタイプと通常液晶タイプが並行して採用されてきました。iPhoneX以降発売のモデルとしては「iPhoneXR/11/SE2/SE3」が通常液晶タイプで、それ以外の機種が有機ELタイプとなっています。
そして「修理用パーツ」という観点で見ると、実は様々な事情が存在しています。というのも、一般的な感覚としては「修理用パーツの液晶方式は、オリジナルと同じ方式である」のが自然だと思われます。「純正品」に関してはその通りなのですが「互換品」の有機ELタイプにおいては事情が異なります。実は、オリジナルが有機ELタイプであるiPhoneXなど用の「互換品パーツ」には、オリジナルと同じ有機ELタイプのものと、通常液晶タイプのものが存在するのです。どのタイプのパーツを使った修理が良いのかは、お客様の考え方次第の部分もありますので、ここではタイプ別の特徴について解説したいと思います。
※以下はあくまで当店独自の見解となります。ご理解の上ご覧ください。
1. 有機ELタイプ:ソフト
実は有機ELタイプの液晶画面には「ソフト」タイプと「ハード」タイプという2種類のタイプが存在します。構造的な違いの説明は割愛させていただくとして、一般的にはソフトタイプの方が高品質と言われております。当然「純正品」はこのソフトタイプを採用しています。そして、互換品フロントパネルにもこのソフトタイプのものが存在し、高品質・高価格なパーツとして採用している店舗様も多いです。特徴としては正に高品質・高価格なことが挙げられ、特に最新機種のソフトタイプともなると、純正品と同じかより高額な料金設定になってしまうこともあり得ます。品質は確かに高いのですが、コスパを考えた場合に純正品とどちらが良いのか、検討の余地がありそうです。とにかく品質を重視したい方におすすめです。
2. 有機ELタイプ:ハード
対して、互換品フロントパネルの有機ELタイプとして広く採用されているのが、このハードタイプとなります。特徴としては、表示品質は流石に有機ELタイプならではの高品質であることが挙げられます。修理料金がソフトタイプより安くなるのもメリットと言えるでしょう。難点としては、ソフトタイプに比べて視野角が狭くなってしまうことと、構造的に衝撃耐性が低いことが挙げられます。特に衝撃耐性が低いことには注意が必要で、ちょっとした衝撃で不具合が起こってしまうこともあります。当店的にはおすすめしかねるパーツと言えます。尚、修理店様によっては「有機ELフロントパネル」とだけ表記し、ソフトタイプかハードタイプかわからない場合があるかもしれません。修理を依頼する前に確認することをおすすめします。
3. 通常液晶タイプ:インセル
実は通常液晶タイプの液晶画面には「インセル」タイプと「オンセル」タイプという2種類のタイプが存在します。構造的な違いの説明は割愛させていただくとして、一般的にはインセルタイプの方が高品質と言われております。オリジナルが通常液晶タイプの機種(iPhone11など)では、純正品にせまる高品質パーツとして、このインセルタイプの互換品フロントパネルがおすすめモデルとなります。そしてオリジナルが有機ELタイプである機種(iPhoneXなど)用の交換パーツとしても、当店的にはおすすめのモデルとなります。理由は「コスパの高さ」です。もちろん、表示品質という観点で見れば有機ELタイプには及びません。ですが、例えば「iPhone11の画面は見るに耐えないのか?」と問われればそんなことは全くなく、そもそも非正規店での修理の最大のメリットである「お手軽さ」において、コスパは重要な要素であると考えられます。したがって、当店では基本的に修理対応可能な全機種において、このインセルタイプの互換品フロントパネルを採用しております。また、品質重視のお客様向けのパーツとして、前出の「再生フロントパネル」も対応しておりますので、気になる方はお気軽にお問い合わせ下さい。
4. 通常液晶タイプ:オンセル
対して、いわゆる「格安品パーツ」「ローグレード品」として出回っているのが、このオンセルタイプとなります。液晶画面の世界的市場も熟成し、インセルタイプの価格が以前と比べて格段に下がってきた昨今において、オンセルタイプを採用する意味はほとんど無いように感じています(あくまで当店の感想です)。現在ではネット通販で一般向けに販売されているか、応急処置用の格安パーツとして採用されることがあるかも?といった印象です。あくまで可能性の話として、例えば「ネットなどで激安な修理価格を表示して、来店されたお客様にオンセルタイプの見本を見せてから、より高額なインセルタイプをおすすめする」なんて販売手法があるかもしれません。